宮坂通信  模索版   2000年6月1日号[拡大]

 

 「日展・特選」

 

 

 

昨年の10月、広島で開催されている二宮実さんのおられる広島信金の

主催の「日本画展」を見にいった折りに、広島在住の画家、木原和敏さん

の家を訪ねてみた。

「子犬を子供が拾ってきた」と6月頃に聞いていたので、その犬にも会ってみたくて、さっそく

に玄関の戸を開けてみますと、熊のような大きな犬が飛び出してきました。その犬の種類の

名前はすぐには出てきませんが・・あの真珠湾攻撃・・リメンバー・パールハーバー。ここまで

言えると出てきました。そうです。アメリカン・レドリーバーが大きな尻尾をブルンブルン振りな

がら私に飛び付いてきます。子犬だと聞いていたので、その落差に驚いてしまいました。「拾

った時はこんなだったんです」と木原さんは20センチ位の大きさを手で表現してくれたのです

が「まさか半年でこんなになるなんて思いもしませんでしたよ。今、35キロもあるんですよ」と

木原さんは犬の首を思いっきりつかまえながら言います。

 犬好きの私ですので、しばらくは犬談義を「広島で有名なミッチャンよりもボクのほうがうまい

と思いますよ」と言って作ってくれた広島焼きを食べながらしたものでした。

 たしかにうまい。しかし、大体において画家さんたちの作る料理はおいしいが、何か共通点

でもあるのだろうか。

 次にアトリエに行ってみる。100号の絵が大体完成していて「私を見てください」といっている

ような気がする。「日展に出す絵なんです」と木原さん。2年前にはじめて出品して入選を果たし、

これが3点目の出品画になるのであるが、その時に特選の話が出たので私は「いくらなんでも

特選はとれないと思うよ。いくら絵が良くてもそう簡単にとれるもんではない・・」と今までのいろ

いろな現実を思いながら言ったのです。「そういうもんですか・・」と木原さん。

 ゴールデン・レドリーバー君がそれから5キロも体重をふやした1ヵ月後に木原さんから電話が

ありました。「お陰様で特選がとれました・・」と。私は夢かと思いました。特にその電話は夜遅く

でしたので余計にそう思ったかもしれません。「それはすごい。おめでとう」と言った私でしたが、

どうも得心がいきません。私は特選など絶対とれないと自信を持っていましたので、その夜は

「どうしてとれたんだろう・・」と思って眠れませんでした。

 その後、詳しい話を聞いてから「成程」とはじめて得心したのでした。それは「日展」の今後の

発展のために「良い絵に賞をあげよう」という日展の上層部の人たちの考え方にあったのです。

今まではともすれば各会派の年功序列や人間関係で賞が決まるケースが多いということを聞い

ていましたので、この勇気ある改革には拍手を送りたいと思います。 この良い例が昨年の日展

の飾り付けでもわかりました。今までバラバラに飾られていた特選の作品が第1室に同じ列に

10点並んでいたのです。しかもその特選を選んだ審査員の人たちの絵もその向い側に並べられ、

その責任を明確にするように構成されていたのです。日展も1歩前進したのです。ただし、これは

洋画の部だけでしたが。

 いずれにしても、この日展の改革にはいろいろな圧力や反対があると思いますが、画家は普通

の人よりも志が高い人たちがなる仕事だと思いますので、日本の文化の向上ためにこれからも貫

いてほしいと思います。お願いいたします。