[美術の窓]
■第80回白日会展(3月26日〜4月4日)
美術の窓 2004年6月
 まなざし M100
 [大判画像]
  2004年 第80回白日会展 1室

記事の抜粋
「まなざし」。血が通い、温かい体温を持った女性像である。フーッと肩の力を抜いた時のような、柔らかい表情が丁寧に捉えられている。花柄のワンピースも粘り強い筆触で、細部まで綿密にとられている。このところ木原の作品は、モデルの存在感を深く追求していて実在感がある。モチーフを見つめる視力の強度が高まったように思う。実在感があるというものは、「気配がある」という意味だ。胸元は呼吸に合わせて静かに動いているようだし、話かければ返事が戻ってきそうな気配がする。膝の上で重ねられた、ふっくらとして血色の良い指先は日頃、本をめくることもあれば、ペンをとったり、コーヒーカップをつかんだり、受話器を握ったり、花を生けたりするだろう。静止しているが、この女性像には生きる気配があって、さまざまなしぐさを連想させられる。モデルの存在を身近に引き寄せながら、さらに画家のロマンティックなイマジネーションが薄い皮膜となって、モデルの女性を香り高く包むのである。現実感を超越し、女性を神格化するような表現ではなく、じつに落ち着いた淡々とした描写のうちに普遍性を獲得している点は、木原作品のオリジナリティだと思う。現代を生きる、ごく平凡な女性が、敬虔で普遍的な女性に昇華され、見る者を魅了する。