筆について 〜熊野筆のインタビューに答えて(記事を抜粋)〜
油彩画について
油彩画は絵の具を溶く油の種類によって様々に表情を変えます。主に豚毛のような弾力性がある筆が使われますが、工程や油の種類、作風などによって変わります。
油彩画の筆
「一言で言うと、粘ついた油を使うので、それに対抗できるコシというか、それをもっていないとなかなか思うように描けません。大小大きさの関もありますけども、コシがあるかないか、どの程度のコシをどの段階で使っていくかということだと思います」
下描き
「私の場合、白い地塗りというか、アクリル系で地塗りして、その上に鉛筆で下書きをして、それから筆を使うという行為に入ります。その時は、すごく油の粘性を抑えて、さらさら状態といいますか、そこで描くのでデザインとか日本画に使うような平筆を使って、全体に温かみを与えるような色を輪郭線を気にせず、とにかく塗るということから始めます」
色を塗る・形を創る
「基本的には豚毛とか狸、あと最近マングースの筆も出ていますが、そういったものを使いますね。というのは、コシの問題なので、豚毛は結構コシが強い。マングース、狸は少し弱くなっていますが、その絵の具の乾き具合とかに応じて使い分けながら、例えば人物を描くのでしたら、その塊としての表現。特に重さを感じさせたり、同時に質感を持たせたりという、色々なことを考えながら、筆を使っています」
仕上げ
「今から仕上げてやろうという時は、細い線が引けたりデリケートな面を調整したりするのに、柔らかかったり、尖がったりする筆、面相筆とかを使います。しかし仕上げだと思ってやってると、実は全然できてなかったという事がしょっちゅうあるんですよ。そういった時は、また半分やけくそになったりしながら豚毛の筆で描き直したり、行ったり来たりしながらというのが実情です」
筆との出合い
 18歳くらいのとき、画材屋に行って油絵セットを買ったんですね。その時に、当時の私としては随分高価な買い物だったと思うんですが、その時に入っていた3本を大事に、永久に使えるものだと思って使っていた記憶があります。
好みの筆
 一般的に油絵に使う代表的な筆、豚の毛の筆があるのですが、その良さを再認識しています。昔は描きにくい筆だなと思っていました。柔らかいイタチやテンの毛が好きだったのですが、最近は油絵で絵の具を置くという感覚が段々好きになってきて、絵の好みもありまして豚毛の筆が非常に気に入ってます。
筆に託すこと
 何が描きたいのか、何を表現したいのかが先ずないと、いくら良い筆を揃えても、ある程度までしかいかないんじゃないか。例えば、立体表現するのに、向こう側にまわり込んでいるとします。

 平面上で描くと一本の線なんだけれども、線の周りがグルッと回っている場合は、向こうへ行け、あっち行けと念じながら描くと結構向こうに感じてくれたりします。それは、まず理解しないといけませんが、思いの先で表現しているのは筆なので、それが以心伝心に伝わってくれる穂先を持ったものが、自分に合った筆になると思う。

熊野の筆
 私も広島に住んでいますので、筆の大産地ということで以前から知っていました。熊野に行って購入するのではなく、画材屋に行って買います。すると、例えば外国製を買ったとしても、実は熊野で作っていたということを後から知ったりする時にちょっと誇らしく思います。

 人それぞれ自分に合った筆は違うと思うので、あんなに沢山の種類の筆が世の中にあるのかとも思います。


(熊野筆ホームページ)
 
> 資料室 > 作品について > 筆について